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仙台高等裁判所秋田支部 昭和24年(を)117号 判決 1950年3月06日

被告人

井島武志

外二名

主文

被告人鈴木秀夫、同菅井敎国の本件控訴を棄却する。

被告人井島武志に対する原判決を破棄する。

被告人井島武志を懲役二年に処する。

原審未決勾留日数中百日を同被告人の本刑に算入する。

但し同被告人に対し本裁判確定の日から四年間右刑の執行を猶予する。

原審訴訟費用中鑑定人大里太郞、証人畠山已之松及び被告人井島の国選弁護人に支給した分と当審訴訟費用は全部被告人井島の負担、証人佐藤誠二及び同柴田周吉に支給した分は相被告人両名及び原審相被告人等と被告人井島の連帯負担とする。

理由

弁護人鈴木小平の趣意第一点の原判決には事実の誤認があつてその誤認が判決に影響を及ぼす事明らかであるとの論旨について。

併し原判決挙示の証拠により被告人井島が相被告人並原審相被告人等四名とも五人で本件被害者方での竊盜を共謀し、その実行に際し被告人井島と原審相被告人斎藤が見張を担当し、財物奪取の役割を担当した他の者等と共同一体となつて本件犯罪を実行したことが認められるし、本来竊盜といい、強盜といい、等しく他人の財物を奪取することによつて成立する犯罪行為で其の本質上同一意思に発しその手段が随時一は財物占有者の不知を利用し、一は占有者の意思を抑圧強制する差異ある丈の同種行為と解すべきだから本件においては被告人井島の所為は客観的には本件犯罪全体について共同正犯たる役割を果たしたものといわねばならない。ところで被告人井島は本件犯罪の実行に先だち財物奪取の手段として共犯者等が用いた暴行脅迫の所為につき関知しなかつたので此の点丈の犯責は刑法第三十八条第二項の規定により問擬し得ないに止まり、共同正犯の責を免れ得べき謂がない。原判決がその挙示の証拠により被告人井島の所為を本件犯罪の共同正犯と認定し判示法条を適用して之を処断したのは洵に相当で所論を肯定する何等の根拠を発見し難いので論旨は到底採用し難い。

(被告人井島武志の弁護人鈴木小平の控訴趣意書第一点)

原判決には事実の誤認があつてその誤認が判決に影響を及ぼす事明かである。

原審判決の追訴申立人に対する認定事実は「被告人井島武志は昭和二十四年四月八日午後十一時二十分頃、相被告人佐藤忠雄、同鈴木博、同鈴木秀夫、同菅井敎国等が山形県西田川郡上郷村大字西目字永上津百二十一番地の一佐藤誠二方侵入し同人より金品強奪を共謀した際その謀議に加つたのであるが耳の疾患の為め金品を竊取する等の共謀があつたものとのみ思い込んで相被告人等と右佐藤方に赴いて相被告人忠雄と共に屋外で見張りをしたが他の相被告人は屋内に入つて佐藤誠二に傷害を負わせ、又同人所有の懐中電燈一個を強取したものである」と言うにある、即ち控訴申立人が原審相被告等と佐藤誠二方に侵入し竊盜を為すべき事の謀議には加つたけれども同被告人等が佐藤方に侵入して強盜を為すことの謀議には加わらず同人等が竊盜を為すものと考えて屋外見張りを担当したものと認定したのである、見張行為が正犯と看做さるる事は大審院の多数判例の示す通りであるが、見張行為が正犯として処罰せらるる条件としては正犯行為が着手の段階以上の実行行為に進み之に相当する犯罪を構成する場合でなければならぬ事は当然である、本件に於ては控訴申立人の認識したる見張行為に対する竊盜行為なるものが存在しない、原審共同被告人等の為したる行為は控訴申立人の認識以外の強盜行為である、強盜行為と竊盜行為とは其の構成条件を異にし、性質も異なる全く別箇の犯罪行為である、従て竊盜行為の見張りを為す意思を以て為した見張り行為が強盜行為の見張り、即ち強盜行為の正犯となるべき理由のない事は当然であり、又竊盜行為の実行正犯がなかつたとすれば其の正犯と看做さるべき見張行為の存在すべき理由はない。

従て原審が控訴申立人に対し敍上の行為を認定したに拘わらず刑法第二百三十五条所定の竊盜罪に問擬したのは明かに事実の誤認であると思料する。

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